日本古典文学を知るための基本文献~古文編~
こんにちは。ノキです。
先日、研究室内向けに日本の古典文学研究案内みたいなものを作ったよとトゥートしたら、わりと読みたいと反応してもらったみたいなので、一部抜粋して現代版に書き換えたものを書いてみようと思う。
内容はちょっと研究目線なので学部生向けかな。
なので物足りない人・あるいはもっととっつきやすいほうがいいよ!って人もいるかも。もしこれはどうしたらいい?っていうのがあれば、聞いてくれれば答えるよ。
あと、これを書いたノキは、専門が上代文学(奈良時代以前)なので、ちょっとそれ目線になっていることは勘弁してほしい。
では行ってみよう~
1.全集
『日本古典文学大系』(岩波書店)
頭注・本文などからなる。国文学研究資料館提供「日本古典文学大系本文データベース」(利用制限あり)で全文検索が可能。
体系ではないので注意。
古本屋では安く売っているので手元に置きたい場合は結構良い。
『日本古典文学全集』(小学館)
これも絶版。
頭注・本文・現代語訳の三段組。
巻頭のカラーグラビア、本文中の挿絵のおかげで読みやすい。
小学館から刊行された類似の叢書に『完訳日本の古典』があるが、同一内容ではないので注意。
これも古本屋で安く売っているので手元に置きたい場合におすすめ。
ノキは学部2年のとき、これの『万葉集』を買ってから研究生活がスタートした。
『新潮日本古典集成』(新潮社)
頭注・本文の二段組。二色刷りで読みやすい。サイズは四六版なので持ち運びしやすいのが利点。
上代文学作品は漢字本文がないのが惜しい。新装版が最近出ている。
『新日本古典文学大系』(岩波書店)
本文・解説・脚注からなる。
近世文学作品が増えたが、上代だと『古事記』・『日本書紀』・『懐風藻』がなくなった。
下の『新編全集』に比べると専門家向け。ぼくは結構すき。
『新編日本古典文学全集』(小学館)
頭注・本文・現代語訳の三段組。二色刷りで読みやすい。カラーグラビアがなくなった。「JapanKnowledge」から閲覧可能。
一般向けの最高峰。お金のある方はぜひこちらを。
2.事典類
わからない点について、辞典類をひもとくことがアプローチの基本。
ここでは、主に事項を調べるための事典を紹介する。
『日本古典文学大事典』(明治書院)
研究の出発となる事典。とにかく気になるものがあったらこれでその事項の詳細を確認しよう。参考文献が明記してあり、その項目の執筆者名も書いてある。
『日本古典文学大事典』6冊(岩波書店)
明治書院のものと双璧。こちらも必見。
3.辞典類
辞書や事典には、おのおの独自の編集方針があるため、「凡例」にあたってその辞書の方針を知っておくことが大切。
さらに、解説のほかに「用例」は必見。用例が適切でないこと、解釈が間違っている場合もあるからだ。
ここでは主に、用語を調べる辞典類を紹介する。
『日本国語大辞典 第二版』13冊(小学館)
古語から現代語まで、現在もっとも大きな国語辞書。「JapanKnowledge」から利用可能。
ある授業で、先生が「学生のうちに『日国』と『大漢和』を引いたことがないのは不幸だ」と言っていた。
見るだけでもいいから、図書館で見てみて。
『角川古語大辞典』5冊(角川書店)
もっとも規模の大きい古語辞典だが、語釈の要領が悪い気がする。
とはいえ、必須辞書であることには変わりない。
「JapanKnowledge」から利用可能。
『時代別国語大辞典』上代編(三省堂)
1つの語について調べるときは、『日国』・『角川』、そしてこれを合わせて3冊は必ず見ること。
「上代語概説」や「付録」も必見。平安時代をやる人もこれは見ると言っていた。
室町時代編というのもあるので、そのあたりの文学作品に興味がある人はこちらを参照のこと。
『古語大辞典』(小学館)
中型の辞典としては最も優れている。語史・語釈が充実。
ノキは最も手軽な辞書として愛用している。
『岩波国語辞典 増訂版』(岩波書店)
最もポピュラーな小型辞典。手元に是非。
『古典基礎語辞典』(角川学芸出版)
大野晋の遺作。語が限られている代わりに語史・語釈が充実。
面白い解釈が多いが、鵜呑みにするのは危険。
読み物的に見てみると良いと思う。
4.文法書
まずは高校文法をおさらいしよう。高校で使った文法の教科書を手元に置くのがなんだかんだで一番使い勝手が良い。
そのうえで、より高度な文法事項を知るための方法を紹介する。
古語辞典の冒頭か末尾についている文法解説の項
辞典はことばを引くためだけのものではない。下手な本を読むならまずは手元の辞典を見てみよう。
大野晋『古典文法質問箱』(角川ソフィア文庫)
一般向けの本なのでわかりやすい。基礎を抑えるために。結構おすすめ。
小田勝『実例詳解 古典文法総覧』(和泉書院)
英文法の本のように、各文法項目が体系的に既述されている。
和泉書院のHPで増補稿が公開されている。必携。
5.和歌を読むために
和歌特有の修辞技法や、言葉の使い方があったりする。和歌に興味のある人は、まず以下の本を読んでみてほしい。そのうえで引くべき辞典も紹介する。
渡部泰明『和歌とは何か』(岩波新書)
著者は中世和歌の泰斗。和歌ってこういうものなんだーとざっくりわかる。
参考文献だけでなく簡単な索引も備えるので、おすすめ。
渡部泰明『和歌のルール』(笠間書院)
和歌の修辞技法について詳しく知りたいならこちらもおすすめ。
様々な学者がそれぞれの項目を分担執筆しているので、前の本より、より一般的な記述になっている。
『和歌文学大辞典』(古典ライブラリー)
和歌のことなら上記の『古典文学大事典』と合わせてこちらも要参照。
『歌ことば歌枕大辞典』
その名の通り、「歌ことば」や「歌枕」についての表現辞典。和歌に出てくる言葉は上記の辞書類と合わせてこちらも必見。
6.文庫
以上は、ちょっと難し目のものを扱った。
ちょっとこの作品に興味あるんだけど、取っ掛かりがほしいな~って時には、文庫を読むのが良いと思う。
この項目では、手に取るのにおすすめの文庫シリーズを紹介する。
角川ビギナーズ・クラシックス
内容を手っ取り早く知りたい・簡単にでいいからあらすじを知りたい!といった用途ならこれがおすすめ。
わかりやすさを重視しすぎていたり、長い作品は抄出だったりするところもあるけど、まず手にとるならこれがとっつきやすいと思う。
角川ソフィア文庫
上では物足りない・もっと内容をしっかり知りたいというなら、これがおすすめ。
現代語訳がついており、注や解釈もかなりしっかりしてる。有名作品はまずこのシリーズにあるか確認するのが良いと思う。
岩波文庫
これは正直初心者にはおすすめできない。作品によるけど、古いものは現代語訳がついてない。注も結構簡素なものが多い。
原文(つまりは古文)でしっかり読める人向け。
その他の文庫(講談社やちくま・河出など)
他の会社のも悪いというわけじゃないが、網羅的でない場合もあるので、その他とした。
ぶっちゃけ、本屋さんに行ってみて自分に合うやつを買ってみるのが一番。ぜひ本屋さんや古本屋さんに足を運んでみよう!
……ということで、非常にざっくりながら日本の古典文学作品を知る・調べてみるのに有用な基本的な文献を紹介してみた。
ところで、タイトルに「~古文編~」とあるのに気づいただろうか。これは、「~漢文編~」を企図しているためなのだけど……ぶっちゃけ漢文は『デジタル時代の中国学リファレンスマニュアル』(好文出版)がよくまとまってるのでこれ見ればいい感はある。
とはいえ、漢文編はデータベースの使い方1つとっても色々と細かい部分の使い勝手もあるので、いちユーザーが書く意義もあるかと思う。いつになるかわからないけど。
そんな感じ。
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